転倒 1
施設を一日おきにたずねていますが、そうするとだんだん、男性の入居者の方も顔をおぼえてきました。
元気で冗談が好きなお笑い系、大人しくて紳士なおじいちゃん、むっつりしたへんくつおじいちゃん
オムレットくんはどれになるんだろう。
しみじみ見ると
「小心者の内弁慶になります…」
自分で宣言していました。
~~ 転倒 1 ~~
二階に上がってみると、オムそばちゃんはぐっすり眠っていました。
階下ではそうとうぎゃあぎゃあやっていたはずなのですが、幸せそうにすーすー寝息を立てています。
泣いたりわめいたりした事でげっそりと疲れましたが、感情を爆発させたことで、怖さがだいぶ紛れていました。
体を動かした疲れもあって、眠ってしまいました。
朝になったのですが、なんともばつが悪い・・・。
母はどうだろう?またすっかり忘れているのだろうか?
でも今日はぐずぐずしてはいられません。
病院に行くと言えばこれは普通に行けるだろう。明日の帰宅にスムーズに帰れるように、なんとしても今日は切符と郵便局はすませておきたい!!
…と思いながら階下に降りると、母がちょうどから洗面所から出てきた所でした。
少し元気がなくて、体をかがめていたので
「おはよう、大丈夫?」
と声をかけました。
こちらを見た母の顔を見てあっ!と声を上げてしまいました。
左目が真っ黒です。
唇も青黒く腫れています。
「どっ…どうしたの!?その顔!?何があったの!?」
誰かに殴られたような痣でした。
最初に思ったのは、夢で私に殴られでもしたのか?ということでした。
いや、私何もしてないよね!?触ってもいないよね!?と自分の記憶を確かめました。
「ああ、どうかなってる?」
母は、顔に手を当てました。痛そうに顔をゆがめ、痛みで思い出したように言いました。
「昨日ね、トイレでちょっと転んだかもしれん」
「転んだ!?トイレで!?それって大丈夫なの!?骨折とか??」
あちこち見てみましたが、腕や足を骨折しているような感じはありません。
顔を触ると痛いのか眉をしかめます。
一体、どうしたらその顔の位置に痣ができるんだろう!?
まるで殴られたようなあとになっているのです!!
氷を持ってきてタオルでつつみ、冷やしました。
母は弱々しい様子で言います。
「昨日の夜、わたし本当に変やったんよ。男の子がいるような気がしてなあ」
「…」
「本当に変な夢を見てばっかいてね、それでトイレに行った時にこう、つまづいたんよね。ガーッと前に倒れてね。バーンと打ってしばらく動けんかった」
入る時につまづいて、トイレに顔面をひどく打ち付けたようでした。
ああ、と胸がつまる思いでした。
昨夜の言い争いはやはり、ショックだったんだろうか。
どうせ忘れてしまうと思ってわめきたて過ぎたのかもしれない。
記憶は消えてしまうんじゃないんだ。母は、母なりに何かを理解しているんだ。
→→ 転倒 2 に続く
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