様子伺い 3
坂を昇っていると、オムそばちゃんが弱音を吐きます。
「ママ横っぱらがいたい」
足が速すぎたかな?
歩調を緩めながら、思い出話をしました。
「おばあちゃんはすごかった。一切待たない。実家の坂覚えてるでしょ。もっと急だよね。これをもっとすごい速度でガンガン歩いてた。本当に元気な人だった」
「ママ何歳のとき?」
「ちょうどあなたぐらいの時だよ。それでクセがついちゃって、お母さんいつも歩くのが速すぎるって言われた。最近はあなたやおばあちゃんに合わせて歩いてて、ふとっちゃったな。ところで横っ腹はどうですか」
「治るかそんなもん。そんな話で 余計痛くなったわ」
大笑いしました。
~~ 様子伺い 3 ~~
母は帰り際に
「テレビが小さいから何とかしてね。あんまり安っぽいものだとみじめだから邪魔でも大きなものがいい」
と言います。
もー!いたくないと言う割に要求多い!
夜の七時頃に興奮した様子の電話があります。
「男三人にここに連れて来られたでしょ?あれはいったい何?正直に言って。怒らないから」
「いや…う~ん」
「娘さんが病気なので早く来て下さいって言われて、注射をされてここに来たんだけど」
「………」
「正直にはっきり、何があったのか話して?それだけ!」
唐突に電話は切れました。
私はストレスからか電話アレルギー気味になってしまいました。
電話が鳴ると過呼吸になり心拍数が上がります。
頻繁にじんましんが出るようになりました。
オムレットくんが肩を揉んでくれました。
不穏な気配であったことをホームに電話します。
すると、介護士さんの話です。
「昨夜はまったく寝ていないと思いますよ。部屋の入り口に設置しているアラームも頻繁に鳴っていました。それでこちらがドアから気配を伺うと、向こうもこちらの気配を伺っているみたいで、ドアごしにお互いにじーっとして待ってるんです」
ん?
母は、『泥棒がいてドアの向こうから誰か伺っている』と言っていたぞ。
宝石の真偽はともかく、母のことでいつも思うのは
「案外本当のことを言っている」
ことでした。
また年寄りが何かボケたことを言ってる~!
では終わらないのです。
こういう所が、ああ適当に相手しててはいけないな。ちゃんと耳を傾けなくては、と思うところです。
午前中に、もう一度ホームから連絡がありました。
こっちも身構えてしまいます。
「ごはんはいらない!外で食べたいから自由に外出させて欲しいの。こんなに自由がないものとは思わなかったわ。あんまりひどい!大丈夫、ホームの人の顔をつぶすような事はしない。ちゃんと戻るから一人で外出したい」
…と言っていたようです。
一応、筋は通っているようです。
迷いましたが土・日と二日間、それほどおかしな言動がなかったので、ここは思い切って一人で外出させてやって下さい。電話はしますといいました。
内心はドッキドキです。
こんな状態で野に放つようなことをするなんて…本当に大丈夫だろうか!?
母はどういう行動に出るんだろう?
昼に電話すると、横浜の高島屋にいて、自分のベッドのシーツを選んでいるといいます。
横浜まで電車で行ったんだ~!!
「すごいねお母さん!」
「こんくらい出来るわね!まだまだボケてないで!」
「元気でそんな風に横浜まで出かけて気晴らしが出来て本当に良かったね。気をつけて。帰りのバスの停留所の名前がわからなくなったら電話してね」
午後の三時ごろに、戻ったようでした。
わたしが訪れると、楽しかったとか嬉しいと言うより、とても疲れた様子でした。
この日は、母からももう電話はなく、静かに一日過ごせました。
→→ 様子伺い 4 に続く