そんなこんなで 1
ブログを始めて本当に良かったなと思うのは、(前にも書いたかもしれませんが)こうして母の過去を振り返る機会ができたことです。
日々年を取って、まさに典型的なぼけ老人になっていく母…。
接していると、昔の思い出も薄れていきそうになります。
母がただの「迷惑な年寄り」になってしまったような気がしていました。
母に困らされた日々も、反発した日々も…。
それでも大好きだった日々も、笑いあったことも、すべて薄れて消えていってしまいそうになっていました。
こうして書くのは絶大な効果があります!
~~ そんなこんなで 1 ~~
この頃おばあちゃんは、めでたく85歳の誕生日を迎えました。
所長さんもいなくなり、とてもイライラしていています。
家を売ったことはきれいさっぱり忘れてしまいました。
ケアマネージャーさんにも
「記憶が持たなくなっていますね」と言われています。
また「外に出たい病」が出てしまい、気が付くとふらふらと外に出ようとしていると聞きました。
基本、とても警戒心の強い人なので、出てしまってもすぐ戻ってくるのが救いです。
薬も増やし、訪問も増やし、一日置きに行っているのですが、落ち着く気配がありません。
ですが、お誕生日です。
おばあちゃんに聞いてみました。
「何か食べたいものはない?」
そうすると
「お寿司かな」
と返事が返ってきました。
「もうずいぶんしばらくお寿司を食べていない」
「そうね~そうだね」
というわけで連れて行ってみました。
腕を腕を取って歩きながら話しかけました。
理解できるかどうかはわかりません。
あまり、そのあたりは考えないようにしています。
「おばあちゃん最近ストレスが溜まっていたんだよね。元々行動的だから、全く変わりない毎日を過ごすなんてかえってストレスが溜まるよね」
「その通り」
おばあちゃん賛成しました。
しかし、お寿司屋に行ってもお誕生日だというのに…(認知症なのに…)やっぱり喧嘩をしてしまいました。
いいマグロ頼んで目の前に置かれた皿を見てこうです。
「これ嫌い。食べない」
「だってお寿司がいいって言ったじゃない」
私はくるみ君を見ました。
「くるみ君…」
「いりません」
「オムそばちゃん食べてくれる?」
「えっ?いらないの?」
オムそばちゃんがさっとお皿を引っ張って自分が食べようとしました。
するとおばあちゃん、指を指して言いました!
「あの子、人の取った!取ったで!お行儀悪いわ~!びっくり」
「自分がいらないって言ったんでしょ~~~~!!!!」
帰り道に母が
「お父さんはどこにいったかな」
と言います。
とっさに、何かを答えることができませんでした。
何も思いつかなくて、じっと黙っていると母が少し薄く笑いました。
「あんた、びっくりしたんやろ」
「うん…」
「お母さんがおかしくなったと思ったんやな」
「じゃあお父さんがどうしたか…思い出したの?」
「いいやわからん。思い出したくないから思い出せないんやろね、さびしいわあ。無性にさびしいんよ」
「それはいつも言ってるけど。まさかお父さんが死んだのを忘れると思わなかった」
もう一つ突っ込んで聞いてみました。
「どうしてお父さん先に死んだんだろうっていつも言ってたけど、今日初めてだよね」
「寂しいっていったのがやろ」
「お父さんが 亡くなったのを忘れたのは初めてだよね」
「そうわからん、おぼえてない」
なんだかちょっと夢みたいで、私も歩いているのに雲を踏んでるみたいにふわふわしていました。
突然、しっかりと確かだと思っていたことが何もかもが曖昧になっていくような気がしました。
ここがどこなのか、どうして歩いているのかもわからなくなりそうになりました。
遠方にお嫁に行った一人娘のわたし。父は十七年も前に亡くなっている。おばあちゃん介護中。
こんな現実的なことはないはずなのに、突然ファンタジーの世界に迷い込んだようでした。
「記憶って不思議だよね。どこから取り出してくるんだろ」
「そうやねえ」
そんな事を言いながら、ぼんやり母とショッピングモールを歩きました。
こんな風におばあちゃんの85歳の誕生日は過ぎていきました。
→→ そんなこんなで 2 に続く