家を処分する日 5
駅の近くで、とてもおしゃれなおばあさまが歩いていました。
皇族みたいな白い帽子に白いスーツをすらっとした体に着こなしています。
背筋も伸びていて、ハイヒールをはいています。
杖をついて、慎重にゆっくりゆっくり歩いておられました。(ハイヒールで)
すごいなあ、お元気だなあ。素敵だなあ。
綺麗な人はおばあちゃんになっても綺麗だなあと思いながら眺めていました。
~~ 家を処分する日 5 ~~
トイレまわりやお風呂は本当に大変です。
生きている限り、これを防ぐ手段はありません。
誰かが、やらなければならないこと…。
「わしがやらにゃならんのじゃ」
そうけいちゃん叔父ちゃんは何度も繰り返します。
「いやいや、叔父ちゃん、プロの手を入れた方がいいよ。早めに入れないと、こっちが受け入れて慣れる力があるうちにした方がいいって。はやく認定調査を受けてもらって、ヘルパーさんを入れようよ」
「そうは言ってもなあ、わしが見れるからの。わしがおるうちは…」
堂々巡りです。
こんなことを言っては何ですが、家庭の中は見えないもの…。
「とにかく、一刻も早く認定調査を受けた方がいいよ」
がんばって何度もすすめました。
宿に着きましたが母は、うっすら覚えていたり、覚えていなかったりします。
「これでやっと安心ね」
なんて言葉が出たりするのですが、
「なんでうちに行かんの?」
と言ったりもします。
家族風呂が付いている宿でしたので、ゆっくりお風呂につかろうとしました。
母は落ち着かない様子ですぐに出てしまいます。
そして、突然のパニックが襲いました。
立ち上がって、すごい勢いで部屋の中をぐるぐる回り始めました。
それから私の方に突進してきて、腕をガクガクゆさぶります。
「ねえ、ねえ!」
「どうした?お母さん」
「わたし何してるんやろ!大変なことをしてしまった!ああしまった!!大変!」
「落ち着いて、お母さん」
また、部屋の中をぐるぐる回ります。
さっきまで、お料理を食べながらおいしいね、温泉旅行なんてあじめてだね、なんて話をしていたんだけどな。
環境が変わったから混乱している?
しかし、叫ぶとまでは行きませんがけっこうな声量で歩き回ります。
そして一番つらいところは、しゃべることが終わりません!!!
ずーーーっと、歩き回っては私をつかんで、説明してくれ、何が起きているのか教えろとせがみます。
「ここはどこなん?私何をしてるの?何?何?何?」
「落ち着いて、お母さん」
「どうしたの?一体なにがどうなってる?ねえ、ねえ!!!」
何か大変なことが起きてる!!
そう言いたい様子なのがわかりました。
落ち着いてと言っても落ち着くわけもなく、大丈夫と言っても何をしても変わりません。
たしかに…母の言うとおり、大変なことが起きてるのは間違いないです。
帰る家を売っぱらっちまったのです。
私も疲れていました。
正直な話、果てしなくウザいです。
ただただ、めんどくさい。
→→ 家を処分する日 6 に続く