今日もまた違う一日

今日もまた違う一日

おばあちゃんが認知症になった時のお話です。

新しい施設で 4

だんだん寒くなってきました。
ダウンコート姿の人も見かけるようになりました。
 

 

うちは、夜に洗濯をすることがよくあります。
間に合わなかったり、次の日の朝を楽に過ごしたかったりするときです。
それなのに、張り切って干した次の日に限って薄曇り!
きー!
となってしまいます。

 

 

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~~ 新しい施設で 4 ~~

 

 

帰ってから、おばあちゃんのことばかり考えてました。
額にはずっと皺が寄ってました。

 

シシガミ様というより、どちらかといえばやっていることは乙事主です。
突進してくる所などは本当にそうでした。

表情と言うか顔つきは、確かにシシガミ様に似ています。
どことなく幽暗の世界をさまよっているようで、半分この世の人ではない感じです。

 

グループホームの方の聞き取りのとき、今までの施設の職員さんは答えていました。
「とても穏やかな方ですよ。まったく暴言とか暴力とかはないです。無理に何かをすることもありません」

 

なので、人の手を振り切って扉の間に身体を押し込む姿…。
「それだけはやめて、それだけはやめて」
と繰り返し言いながら、ぐぐぐぐ!とすごい力で扉を開いて体を割り込ませていた母。

その話を聞いたらもとも施設の方たちはきっとびっくりすることでしょう。

 

これはやはり、必要ならばお薬を使って下さいともう一度言おう。
そう思って、また訪問をかさねました。

 

帰る帰ると言われると、こちらもどうしていいかわかりません。

 

次に行った時には腰が引けてしまっていました。
ベテラン介護士さんが優しく、
「娘さんはちょっと下まで行ってくるだけですよ」
と対応しているのを見て、感謝すると同時に複雑な気持ちになりました。

 

わたしはあれがどうしても出来ないのです。

 

介護職は、やさしい嘘であふれていました。

 

「嘘はうそ!ごまかしが一番嫌い!」
そう言っていた母でしたが、現実はそのような矜持も吹き飛ばしてしまいました。

 

母に正直にいられないつらさと、正直でいればいたで、何度も母をがっかりさせ続けなければならないと思うのがつらいのだ、と気が付きました。

 

幸せでいてもらうことができないつらさから、結局逃げるしかない。
でも世の中は…。
逃げられない人であふれている。

 

日々うそをつかなくてはならない。
心を病むなと思いました。

 

「考えないようにするか、割り切るしかないよ!」
と友達は言いました。

 

 

 

 

この頃、施設は、ばらばらっと人が替わってしまいました。
それに応じて、最初に感じたときと全然違う雰囲気になっていました。

 

母の部屋は二階にあります。
一階はいつもいらっしゃいと応答があるのですけど、二階に上がると…。
どんどんどん
どんどんどん
「こんにちはー!こんにちはー!」
どれだけ声をかけても、ドアをたたいても返事がありません。
シーンと静まり返っています。

 

「???」

 

上の方に鍵があり、外からは開けられます。
なので、手を伸ばして開けました。

 

入居者のみなさんが、じいっとただ座っています。
「すみませーーん」
また呼ぶと、奥の方からバタバタッと音がして出てきました。

 

 

 

 

→→ 不安 1 に続く

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