若返ってる
母の外出三回目は、もう入り口からびっくりしてしまいました。
「うわあ~元気そう」
「そうかね?」
横から施設のかたも口を出されました。
「そうなんですよ。なんだかお元気で」
すごくはっきりした母です。
前にうちに来たとき、家から出たがらない、帰りたがらないということで肝を冷やしましたので、どうだろうかと思って、ちょっと重たい心で来たのですけど…。
すごく元気だ!
関係ないんですけど、このお弁当箱、ずるくないですか?
↓なんだか笑ってしまいました。
シートベルトをしっかり閉めています。
細かいことですが、いつもは、シートベルトと言ってもまったくわからないし、ベルトを握ることができてもどこに差し込むのかもわからず、手をかしていたので、
「あっ、今日はできるんだ」
と思います。
すんなりとカチッとさしこみました。
「あんた誰かと同棲してんの?」
なんていうので笑ってしまいました。
会うたびに、結婚したのかどうか、すごく聞いてきますし、「誰か男性と暮らしている」というイメージが強いのでしょうか。
「結婚したよ」
「結婚した!!」
父のことも言い出しました。
「お父さんびっくりするだろうね。しらんよね」
(存在を忘れたかと思ってました)
顔つきも声も強いしはっきりしてます。
正直、私より元気そうです。生き返ったみたいです。
オムそばちゃんがもう学校から戻っていないか、考えました。
オムそばちゃん、鍵をわすれてそうだな?
ガソリンを入れたいけど(またかよ)、何となく嫌な予感が…。
昨日、オムそばちゃんが自分の鍵を、ランドセルからはずして使ってたのを思い出します。母親の直感です。
オムそばちゃんが戻しているはずがない!
せっかく使っている携帯にも電話しましたけど、連絡がありません。
ガソリンがないのというのは、母の外出は平日ですが、土日にオムレット君が散々使ってそのままにしてるからなのです!
そのつけはだいたいおばあちゃんの外出日ぐらいに来ます。
3連休もあったので、とてもやばい感じでした。
とりあえず、ガソリンを入れるのに付き合ってもらってから、家に戻ることにしました。
ガソリンスタンドで、母が指さします。
「だいふく」
と言いました。
空の雲が大福みたいなのかな?面白いことを言うなと思ってみたら…。
ガソリンスタンドの洗車機のメーカーです!
それも英語でDAIFUKUと書いていました。
(あとで調べてみたら、洗車機のメーカーさんでした)
この前も病院で「相談室」とあるのを読んでいましたし、大好きだった本は読めなくなってしまいましたけど、こういう所は案外変わらずに残るのかも…。
こんな小さなことまで一つ一つ、拾い上げて取っておくようにする毎日です。
ガソリンを入れおわり、そろそろオムそばちゃんが帰ってるかなと思って家に行くと、案の定情けない顔で玄関でうろうろしてました。
窓の中から指を上げてちょっと怖い顔で合図すると、はっと分かってしゅんとした顔になります。
この表情豊かでおもしろいところが、オムそばちゃんのずるいところです。
おばあちゃんが頭を撫でようとするとつっと避けました。
もう高学年なので、私が撫でようとしても避けますが、すごい怖い顔で怒りました。
「おばあちゃんだって孫には障りたいでしょ。よけるのはやめてあげて」
病気を理由にしてこうして外に連れ出すことができるようになったように、こういう、おばあちゃんに優しくしていうのもすごく強く言えるようになりました。
余命宣告は、3週間から1年というものでしたけど、おばあちゃん、楽勝で3週間過ぎてますけど、めっちゃ元気でつやつやしてます。
むしろ若返ってる感じがするぐらいです。
家でも機嫌よく、ほのぼのと過ごせました。
認知症の症状がひどい時に比べると、今の穏やかさが 嘘のようです。
認知症の人は、一度あの酷い状態になってしまったら。もうずっとおさまることはないのかなと思っていました。
けどちゃんと歩いて動けて、この穏やかさというのは、本当に不思議で とてもありがたいです。
最後の母と私の関係に、神様がくれた 贈り物なんだろうか?という風に考えるほど、もう一度あの大変さを追体験してしまいます。