プラマイゼロ、きっと
母を送ったとき、あちこちクンクンしてしまいましたが、うっすい服のことも気になりました。
こうして体を見ると、どれだけ痩せてしまっているかわかりました。
脂肪が無くなっちゃって骨と皮になっています。
相当に暖房をきかせた屋内ならともかく、そりゃあ寒さが身にしみるだろうなと思います。
本当なら、冬服がどうなっているかなど、施設内に入って色々見てみたい気持ちもあるのですが、母を外出に連れ出すことはできても、施設の中にはあまりずけずけ入り込まない方がいいと思います。
今、コロナも爆発的に流行っているようですから…。
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家に帰ると、おばあちゃんの食べ散らかした後の後始末です。
くるみくんだけでなく、オムそばちゃんにもお願いしましたが、クンクンしても特に何のにおいもしないとのことでした。
やっぱり神経質になっちゃってるんだろうか。
気になるせいで、クンクンしながらあっちこっち磨き上げたので、おかげでトイレはいつもよりピカピカです。
何となく水曜日はおばあちゃんの影響を受けた私のテンションが違っていて、「片付けさせられる日」と子どもたちもわかっているみたいです。
言うことをほかの日よりは比較的きいてくれるので、口やかましく言いました。
古新聞を持って行って、だとか、分別ごみを捨ててきてだとか、いつもならめんどくさいと言われそうなことも、二人ともやってくれます。
忙しくしながら、くるみくんやオムそばちゃんに、あれこれ、なかば自分に言い聞かせるように言いました。
「おばあちゃん来た時に、本当にめんどくさい、どうしてこんな苦労しないといけないんだって思うかもしれないけど、楽しいだけが人生じゃないよねっていうね。それを考えた」
このことだけに関しては、やっぱり、実際に手伝ったオムそばちゃんも、もうよくわかるくるみくんも、じっと黙っています。
やっぱりちょっと、簡単に口で文句を言うことが出来ない問題だとわかるみたいです。
「絶対そう。ずっと何も苦労なく、楽しくのほほんと生きるなんてありえないよ。苦しいことの連続だよね。人生なんて苦しくて大変なことなんだよ」
でも、今日は本当に大変だったのですけど、母のトイレの始末を、そんなにもう、絶対にやりたくないとか、二度とごめんだとか、そういうことはなかったです。
まだ、かもしれませんけど。
仕方ないというのもあるけど、やっぱりそこは、やっと母にしてやれることができたんだなという気持ちがちょっとだけあります。
いつもいつも、母に手を差し伸べたり何かしようとすると、断られたり、喧嘩したり、喜ばれなかったりすることばかりでした。
いやな思い出もあります。
母に誕生日プレゼントを買ったりすると、いつもいやな顔されてました。
喜ばれたことは一度もなく、決まってせりふは
「こんなのしてくれるぐらいだったら、勉強してくれた方がいい」
でした。
最近、受験で親に追い詰められたかたのエッセイ漫画見ましたけど、すごく似ている部分がありました。
しかし、やっぱり母は、私のことがかわいいという気持ちが、勉強などで自分の理想を実現してほしいという気持ちよりも、すこしだけまさっていたかもしれません。
なので、文句も言わず、おとなしく母がおむつ換えを待って、
「ありがとね、ありがとね」
というのは割と新鮮なものがありました。
(まあ、最初だけだし、たまにだからなんだろうとは思いますけど…)
こんなことを子どもたちに話していたのは、何となく、くるみくんたちに、「おばあちゃん=いやなこと」、汚い、めんどくさいとだけ思ってほしくないなと思ったからだと思います。
「もちろん好きではないけど...。誰も好きじゃないと思うあんなの。常にトイレのお世話をしないといけないって本当に大変だと思う。介護施設って、常に誰かがうんちしてる状態だと思うの。日々ひたすらうんちを片付ける毎日だよね」
そう考えていると、髪の毛がついていてはらってないだとか…うっすい服だとか、そこまで文句を言えないような気がしてきました。
文句を言いたい気持ちはあるのですが、不満な気持ちが失せてきました。
「もし、苦労知らずのお金持ちで育ってきたような人がいるならいるで、その人は本当に苦しい目にあった時に、我々(我々…)一般人の何十倍も苦しい思いしなきゃいけないことになるんだよ!だからきっとプラマイゼロ」
これはあくまで願望です。
ハトが川を覗き込んでいました。